第89章


しばらくそのままでいた。テレビの音が陽子を元の世界に戻してくれた。テープが終わりまでいったのだ。デッキが巻き戻しを始める。いつもと変わりないテレビショッピング番組だ。品物を褒めそやす陽気な司会者達の声がうるさく思えた。
溜息をつくと途端にじんわりと尿意が訪れた。身体もやっと安息をおぼえたらしい。
しかし、たいした量ではないはずなのに、なんとなく差し迫った感じがする。イッた直後のため堪え性が失われている。いつもよりずっと低いラインに限界点が下がってしまっていた。


(…だ…だめだ…)


入口に沁みるようなところまで来ている。その部位付近にはこらえるだけの持続力は残ってない。このままでは漏らしてしまいそうだった。

陽子は力を振り絞って体を起こした。軽く全身が痺れていて、立ち上がったときふらっとめまいがした。足にうまく重心を乗せることもできない。陽子はよろよろとトイレのほうに歩いていった。

一歩一歩踏みしめながらようやくバスルーム入口のところにある角に掴まった。トイレは向かい側、もう2、3メートルほどだ。


(…あ…だ…だめ…)


そこできゅぅっと尿意が降りてきた。身体が屈み、中腰の内股になる。掴まってないほうの手が宙を泳いだ。


(…もれ…もれ…ちゃう…)


もうトイレに向かう余裕もなかった。陽子はバスルームのドアを開ける。膝を閉じ合わせながらよたよたと歩を進めていった。

ここのユニットバスは、そう狭くはない。よくあるFRP製でもなく、立派なタイル張りだ。入った向かい側にあるシャワーのフックでも良かったのだが、そこさえも厳しく陽子はすぐ横にあったタオル掛けに掴まった。入ったはいいがどうしてよいかわからなかったのだ。しゃがみでもすればすぐにでもひっくり返ってしまいそうな気がした。それに道端の幼児じゃないのだ。いくら一人きりとはいっても、育ちのよさがそれを許さなかった。

本当にどうしていいかわからない。なぜ自分はこっちに入ってきたのだろう。言うまでもない。漏れそうだからだ。間に合わないのだ。
もう限界だった。こらえきれない身体が、意思に反して力を緩めつつあった。どうしていいかわからなかったのだ。


…じゅ…じゅじゅ…


「…ぁ…ぁ…」


沁みるような感じと共に放尿は始まった。内腿を温かい液が伝い下りていく。すぐにもそれはかかとまで届いて出水口に向かって川を作り始めた。


「…んぁ…ぁぁ…」


失禁している、という感じが強く陽子を包む。腰が曲がって、両脚は自然とがに股になった。そのせいで尿が勢いを増し、床に向けて直接放たれる。脱力感とともにがくがくと震えながら膝が曲がっていった。


「…んん…ふんん…」


しゃがんでいくにつれ、放物線は前に方向を向ける。やがて陽子は開いた膝をついて、手すりから離した手をやはり膝のところに着地させた。その姿はちょうど長い正座で痺れた足の回復を、ばれないよう背筋を伸ばしながら待っているような格好に似ていた。


「…んぁ…ぅあっ…」


それほど膀胱には溜まってはいなかったようだ。短い排尿が終わると陽子はいつものように残りの分を搾り出そうとした。強い迸りが放たれる。しかしそれが一、二回で収まらなかった。


…チュピッ…チュピッ…


「…ンァッ…クゥンッ…ンァッ…ンァッ…」


腰がそのたびに動くので、陽子の姿勢はまるで、正上位で射精する男のようだった。
出す尿がなくなっても何度かその動きは続いた。

いま、軽い絶頂に達していることを陽子は自覚していない。排尿と性的興奮が結びつくなど陽子の常識には存在しないのだ。陽子はいま、排尿の行為のみを行ってると思っている。だがこのほんのちょっとしたそばの刺激で、膣は悦びの収縮をみせていた。陽子はそれを排尿時独特の開放感と信じて疑わない。


「…ふ…っ…ふ…」


全身をぶるっと震わせ、排尿は終わりを告げた。体力を消耗したのか悪寒のような寒気も感じた。意識を覆っていたもやのようなものも消え、時や居場所を認識する考えが落ち着きを取り戻しながら地にしっかりと着地していった。自然と深呼吸をする。


「…すぅーーーっ…!!…うぐっ!…」


まぎれもない、それは精液の匂いだった。いままでもずっと感じていたのが、落ち着いたせいで逆に際立ってしまったのだ。陽子は自分の顔面が男の淫液だらけであることに改めて気づかされた。





目次へ     続く

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