第88章
陽子はひとり部屋に取り残された。呆然としてなにを見るでもなく、焦点はすぐそこの空をぼんやりとただ見つめている。
ただ、身体のどこも動かせなかった。ベッドの脇に背もたれて半端なあぐらをかいてるような格好のままだ。膝が大きく開いて両側にぺたんと落ちているので股間は全部丸見えである。たとえジャージを付けてテレビを見ほうけていたとしても、女としては恥ずべき格好だ。
しかしいまは恥ずかしい、などという域はとっくに越えていた。ここで男は自分の部屋で勝手に行えばいいはずの自慰をして、思う存分陽子に振り撒いていったのだ。
なんのためにこんなことをするのだ。それほどまでに自分を辱めたいのか。あれほどまでに犯し尽くしてまだ足りないというのか。
もう充分だ。これ以上の辱めはもう充分だ。いっそのこと犯されてたほうがまだましだ。これ以上されたら、これ以上ヘンなことをされたら…
(「…んっ…んぐっ…ごくっ…」)
(…?…)
かすかに自分の声がテレビから聞こえた。ぼんやりと陽子はそちらへ目を向ける。
朝の場面だ。陽子はM字型に膝を立ててこちらに性器を晒している。胸のところに男がしゃがんでいるので顔は見えない。男が手に動かしているのは多分陽子の頭だ。男の尻がヒクヒクとへこんでいる。出ている。しゃぶらされているのだ。そして音からすると飲んでいる。向こうでは男が陽子の口を使って射精しているのだ。それこそ陽子を便器替わりのようにして。
そのうち画面は縦に二分割された。片方はいまの場面のまま、もう片方は開いた股間のアップだった。性器からトロトロと白い液がこぼれている。周りの陰毛は白いババロアのようだった。
(…あれだ…あの液なんだ…ぜんぶ…)
さっき見たばかりの、ペニスの射精するシーンが頭をよぎった。
あれほど大量に出るものなのだ。さっき一回だけであれほどなのに、あの夜はいったいどれほどだったのだろう。何回もあの量を注がれたというのか。口にも、顔にも、アソコにも。
(…違ってない…いまだって、あの時とおんなじことされたんだ…)
確かに男は陽子に向けて性欲を果たしていった。その意味では同じことだ。体外で、とはいってもそれがかえって陽子にとってその被虐は同等のものだったと言える。
(…でも良かった…犯されなくて…)
しかしそれでも物理的に犯されなかったのは不幸中の幸いと、陽子は自分に言い聞かせた。
ビデオもようやく終わりを告げた。砂の嵐になり、そのうちデッキが感知して画面は真っ青になった。
目線を下げると白いものがかすかに見える。ほっぺたについた精液の固まりだった。顔のいたるところに糊のような粘液が貼り付いている。こめかみについたのがいまにも垂れそうだ。口の中には入ってないが、唇を開くとネトネトする。
そのまま下に目を向ければ、胸の谷間のところ服の上にべっとりと付着している。股間の陰毛にもそれはあった。ぼたぼた落ちたために液は毛先を光らせながら下に沈んでいる。坂になっているので向こう側に垂れていくのだ。気づくと前方少し離れた足先のところに縦線状のシミがあるのがみえたが、これだけ周りが濡れそぼった状態では気にもならなかった。