第67章
ティッシュペーパーは何枚使っただろうか。やっとのことで床をきれいにした陽子は、それでも手についた粘液を洗うために洗面所に向かっていた。
(きれいにしたんだ…できることはすべてやったわ…とりあえずなにか食べなきゃ…気が滅入るだけだ…おなかすいたもん…なにか食べよう…)
外に出る気はなかった。冷蔵庫に向かい、頃合のものを物色してごちゃまぜの炒め物をつくった。いつもより調味料を強めに味付けをした。スタミナのつくものを食べたかった。
いつもの陽子にしては肉の多すぎる、しかも油のギトギトした炒め物で食事をした。旺盛な食欲で、これほど食べるのは高校生ぐらい以来のことだった。次々とおかわりして、ご飯はあっという間になくなった。
「うふぅっ…」
箸を放り投げてベッドにもたれかかった。お相撲さんにでもなったような気分だった。げっぷをしながらテレビをつけた。ワイドショーの時間帯は既に終わって、番組は一昔前のバラエティの再放送を映していた。
満腹感もあいまって心地よい気持ちで陽子はテレビを見ていた。芸人のギャグに屈託ない笑い声を上げることができた。
「…ぷっ…あはっ…あははっ…」
生活の時間帯がずれたためか体がなんとなくだるかった。でも心が楽しいことを求めるようにブラウン管に繰り広げられる能天気な内容に、つらいことを忘れたいのも忘れて笑った。
「…きゃははっ…あはははっ…」
…どろっ…
「…!!…」
股間から流れるものがあった。
(…なんで…なんで…)
しかしなにかここ最近のものと感じが違う。確かに経験した事のある感触だった。
陽子はジャージを広げておそるおそる股間の中をのぞいた。
赤いものが広がっていた。
(…え?…三日早い…)
月経がはじまったのだった。
覗きこみながら陽子の顔がちょっとの緊張からくしゃっとほころんでいった。
「…あはっ…あははっ…あはっ…はっ…はっ…」
つつーと目から涙がこぼれ出た。うれしさのあまりしゃくり声になりながら笑っていた。
(…よかった…よかったあ…)
「…あははっ…ぐすっ…あはははっ…」
こんなに幸せな生理を迎えたのは生まれてこのかた初めてだと思った。