第41章
武史は前に向きなおし、陽子の頭上に備え付けてあるティッシュを4、5枚取り、目の周りを拭いてやった。
「…だいじょうぶ…目にはかかってないよ…」
武史が拭いてやったのは目の周りだけだった。いびつな白いパックに覆われた顔のまま陽子はしずかに目を開いた。寝ぼけたようなうつろな目だった。
「…上を見てごらん…」
天井の鏡が陽子の顔を映していた。白い粘液が顔のところどころに貼りついていた。手を使わず直接口をつけてクリームパイを食べたように、鼻と唇が白いものに覆われていた。口の中にはまだ白い色が残っていて、唇の合わせ目が糸を引いていた。顔中、精液まみれだった。
「…う…うう…」
「…」
「…うえ…ええ…えええ…」
陽子の目から涙がこぼれた。首から上全部が穢されてしまった思いでいっぱいだった。
「…えええ…ええええ…」
「…ヨウコ…泣かないでヨウコ…ヨウコのおかげで僕、とっても気持ちよかったよ…」
「…ええ…ええええ…」
「…ありがとう…ヨウコ…」
「…え…えくっ…えっ…」
「…僕だけが満足してちゃだめだよね…」
「…はあ…はあ…」
武史の声がうつろな頭に響く。
「…安心していいんだよ…ここにはヨウコと僕ふたりだけだ…」
「…はあ…はああ…」
「…どんなになってもいいんだよ…どんな声出したっていいんだ…」
「……」
声が催眠術のように響いて耳を通り過ぎていく。
「…ヨウコ…全部飲めなかったね…」
「…」
「…言うこと聞かない子は罰を受けるんだ…」
「…」
(…ばつ…罰…)
これ以上の罰があるというのだろうか。言葉の意味も不確かなままに、陽子の身体は精液の生臭い味と匂いに染まっていた。
「…ヨウコのすべてがみたいんだ…」
武史は両手の拘束を解いて身体を離しベッドを降りた。陽子はなんとかひざを立てたまま足を閉じた。両手がおなかの上で組まれた。身体にまったく力が入らなかった。
近づいてきた武史がまたベッドに昇った。頭上でガサッと物を置く音がした。なんとか頭を向けるとティッシュボックスの脇にそれがあった。
陽子が持ってきた紙袋だった。