第42章
腰がもうすでに動いていないことはわかった。武史が絶頂を極めたときから、陽子は自分の全身から力を吸い取られたと思っていた。しかしいま事が終わってしずかに身体を横たえていると解った。いつも横になると感じるあの、胸の鼓動が収まっていく感じがなかった。
腰のあたりにまだ種火が熱をもってるように感じた。味覚嗅覚には精液以外のものはなにひとつ感じられなかった。いまだ濃いままの強烈な味と匂いが食道と肺を通り過ぎて股間に火を灯していた
震える手を顔に近づけ頬にそっと触った。頬はネトネトした感触に覆われていた。手を離すと三本の指に白い糸が伸びてるのが見えた。
(…ああ…においで…へんだ…わたし…なにか…いつもとちがう…)
こくんと軽く唾を飲んだ。エレベーターが下降するような感覚に落ちた。精液の味が混じる唾が、喉から食道へ、胃を通過し子宮に触れる感じがした。
(ああっ…)
武史がそのありさまを温かい目で見守っているのに気付いた。うつろな目で陽子は言った。
「…まんぞくした?…」
「…うん……とっても…」
「…よかった…じゃあ…シャワー…んっ」
陽子は上半身を起こした。が、力が入らなくすこし背中が持ち上がっただけでまたベッドにどさっと落ちた。
「あんっ…」
「…手伝ってあげるよ…」
武史は陽子の背中を起こしてやり陽子の背中についた。もしこのまま陽子がひざを伸ばせば、肩を前に押して柔軟体操を始められる姿勢だった。
肩に両手がかかっていた。耳のそばに顔が近づいて陽子に囁きかけた。
「…ほんと気持ちよかったよ…」
手が肩をすべり陽子の胸をやさしく包んだ。指の腹が乳首をやさしく撫ぜた。
「…あぅん…もう…いいで」
「ヨウコまだなんだろ…」
武史の手が胸を離れた。武史の胸が密着し、背中が前に押された。
「んぐっ…んんっ……」
「…僕は満足したよ…でもヨウコは…まだだよね…」
右手が陽子の右手を掴んだ。そして掴んだ手を前に持ってゆく。
…かちゃり…
右手枷のフックが右足首のリングにかけられた。
(……!!……)
「…ふっ…ふっ…」
あわててシーツをまさぐる左手も取られた。
かちゃり…
同じように左手も足首につながれた。
背中から武史が離れた。しかし陽子はもとのように横になることができなかった。ひざを曲げてボートを漕ぐときのような姿勢のままになった。いくら引っ張ってもかちゃかちゃ音がするだけで無論離すことはかなわなかった。
両脇から武史の手が伸び、大きな胸と胴体をまさぐった。息が首筋の横をくすぐる。
「…見逃すもんか…ヨウコ…」
「…は…はずして…はずしてっ…はずしてっ…」
「…ヨウコの身体は…まだ満足してない…」
「…もっ…もう…いいから…よ…よかったわよ…」
「…ぷはあ…はむんっ…」
「ふあっ!…」
武史の口が耳にかぶさってきた。ピチャピチャと音を立てて耳たぶをしゃぶる。
胸をまさぐられる刺激と、最大のボリュームで入ってくる淫音が直接脳に響く。
「ぴちゃっ…ぷちゃっ…出来上がっちゃったんだ…ヨウコ…」
「…あっ…んあっ…」
「…最近、じゃなくて、いままで本当に満足したことなかったんだろ…ずぷちゅっ…ぷちゃっ…」
「…くぅぅ…あっ…あっ…」
「…ちょっと僕がさわっただけでこのありさまだ…ぺちょっ…ヨウコ…君はセックスのための淫乱な身体に出来上がってるんだ…僕に会う前から出来上がってたんだよ…レロッ…ぺちゃっ…」
「…やっ…そん…な…うそっ…ああっ…」
武史が口を押し付け舌で耳の穴をほじくる。
くすぐったさが身体を上へ引き上げる感じがした。快感から逃れようと頭を横に傾けても武史の舌が追いついてくる。手が足から離れず、かちゃかちゃと鳴っていた。手が足を引っ張りズズッと音がした。
「…んんっ…れろっ…ぷちゃっ…嘘じゃないよヨウコ…こうしてる間にも身体が男をくわえ込みたくてうずうずしてるんだ…そのうち自分からチンポにしゃぶりつくようになっていくんだ…」
「…あっ…そ…そん…な…こ…と…なっ…ああ…」
「…ヨウコオマンコ好きになりましたって…ちゅぷっ…チンポオマンコに入れられるの大好きになりました…ちゃぷっ…おいしいザーメン飲むの大好きになりましたって…れろっ…ちゅぷっ…」
「…い…いやあ…あああ…」
否定はした。しかし腰のあたりの熱が冷めない。身体がいままでにない反応を示しているのは確かだった。こんなことは初めてだった。身体に変化が訪れているのは認めるがしかし、理性をしっかりと持った自分が我を忘れて男を求める姿など想像だにできなかった。有り得るはずがなかった。否定するのが当然だった。
「ぷはあ…」
武史が体を離れた。陽子の頭がうなだれひざを立ててうずくまった。
武史が前方に動いた。ひざの向こうに座った。
「…信じられないだろうけどヨウコはそうなる…証拠を見せようね…」