第26章

陽子はまた受話器を手にした。

「25件の伝言が入っています。」

陽子はボタンを押した。どれも武史ではなかった。すぐに陽子は電話を切った。

(まだ寝てるのか…仕事中か…やってるかな…川崎君…みんな…)

部屋の外のほとんどのみんなはいま仕事中なんだと陽子は思った。
部屋で一人寂しく受話器片手に伝言ダイヤルに耳を傾けている自分が、社会から切り離された存在のように思え、なにをやってるんだろうと悲しくなった。

(…仕事を探そう…)

正社員でなくていい。町を離れるのだからすぐに辞められるバイトでいいんだ。陽子は自分にそう言い聞かせた。

(霞を食べては生きていけない…少ないけどクルマのローンもあるんだし…仕送りの無心はしたくない…)

陽子は立ち上がり外着に着替え部屋を出た。外の空気がいつもより新鮮に思えた。
エンジンをかけ、職業安定所に赤い軽自動車を走らせた。

職安の駐車場はいっぱいでなかなかとめるところを見つけるのに苦労した。首を振りながら出てきた二人の若者がなにやら長い話を終えやっと乗り込み出て行ったところになんとか割り込むことができた。
中へ入ると人、人、人でいっぱいだった。辛抱強く列に並び失業の番号を交付してもらった。人ごみを掻き分け女性バイトのファイルを2,3冊かかえてシートに空きがないのを確認すると立ったままページをめくり続けた。
ろくな仕事がなかった。時給は安く、きつそうなものばかりだった。時給が倍以上も高いのはコンパニオンとか接待とかいかにも水商売や風俗の香りのするものだけだった。陽子は、時間が24時間シフト制のいくらか夜間手当のあるページを選び、書類を作成して提出し、呼ばれるのを待った。
しばらくして相談員が陽子の番号を呼び出した。相談員は時間が不規則なのと仕事がそれほどすぐ習得できるほど単純なものではないことを告げた。それでもいい、がんばりますと陽子は懸命に申し出た。相談員は会社に連絡を取り、三日後の面接を取り付けてくれた。午前10時の約束だった。陽子はすぐに承知すると相談員に礼を言い、席を立った。相談員が次の書類を出し呼び出すと、初老の女性が乱れた髪を撫でつけながらあとに座った。


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