第27章
陽子は家に帰りコップに水を注いで立て続けに2杯飲んだ。
(喉が渇くな…暑いのかな、今日…)
午後4時になっていた。
陽子は受話器を取ってまた伝言ダイヤルの番号を押した。
「26件の伝言が入っています。」
武史の声ではなかった。回線を切った。受話器を持ったまま、しばらく正座したひざを見つめながら考えていた。
(…あいつ…………)
大きなとげが喉に引っかかってるような気がした。早くこんな惨めな思いから逃げ出したかった。
(…………)
陽子は受話器のボタンを押した。
「……あの…陽子…です…」
消え入るような、怒りを押しとどめているか細い声だった。
「……カメラ…ごめんなさい…でも…でも……」
陽子は懸命に怒りをこらえた。
「…手紙…みました…ひどい…です…こんな…ことして…平気なんですか?…わたしが…欲し…………かっ…たら…今回だけ…今回だ…け…それで…終わりにして…ください……」
陽子は立ち上がると部屋の掃除をした。乾いた洗濯物を取り込みたたみ始めた。スカートはやわらかく昨夜の悪夢はきれいさっぱり落ちたように見えた。パンツも同様だった。その部分に少し黄ばんだ汚れはあったが、それは昨夜以前からのもので悪夢を呼び出すには至らなかった。
洗濯籠の中に一枚、シャツと一緒にまだ洗われてない今朝のパンツがあった。
ひどい状態だった。ガビガビに乾き固まってひしゃげた固形物になっていた。
(……)
水を出し洗面所で手もみで洗い始めた。すぐにパンツはやわらかさを取り戻したが代わりに溶けた粘液で全体がネチョネチョとした手触りになった。
(…こんなになるまで…わたし…)
昨夜のではない。これは陽子がココに帰ってから自分ひとりで濡らしたぬめりだった。
それを思うといても立ってもいられなくなった。かまわず手元の石鹸をまぶし、力任せに洗った。
ベッドに腰掛けたが軽い眠気を催し陽子は布団も羽織らずに横になった。失業した非日常の疲れも早起きしたせいもあったのだろう。うとうとと眠ってしまった。暗がりの中で目を覚ますとすでに7時になっていた。
軽く食事を作って済ませるともうすぐ午後8時半だった。陽子は受話器を手にした。
また伝言の数が増えていた。そして手前から3件目にその伝言があった。
「伝言ありがとう。今度はヨウコから誘ってくれるんだね。振られたと思って腹いせに画像をネット上に公開してやろうかと思ってたんだ。愛するヨウコ…。僕の愛するヨウコは昨日と同じ服装で着てくれるよね。しかも今度はノーブラノーパンでだ。隠さなくってもいいよ。ヨウコはそうしたいんだろ?写真を取り戻したかったらヨウコはそうするさ。そして駅前○×ビルの3Fにある女子トイレの一番奥の個室。ああ、一番奥は用具置き場だ。とにかくその奥のトイレから僕の携帯に電話して。まってるから。でも9時までには来てね。もう僕はこの伝言は聞かないよ。」
陽子は次第に泣きそうな顔になってその伝言を聞き終えた。
(早まった…もう少し考えて伝言すればよかった…なんでもいいからなんか指示を出してこっちのペースに持ち込むべきだったんだ…)
しかしもう既に遅かった。もう最初の指令は武史が下していた。いま電話しても写真のことを持ち出されればこちらの要求はなんらの効力もなさないだろうと思った。
しかし…時間はもうない。
陽子はせっかくたたんだ服を広げ身につけ始めた。ブラをつけてシャツを着た。外へ行くときのいつもの習慣だった。
(…いつどこで確認されるかわかったもんじゃない…ばれたら…)
陽子はシャツを脱いでブラをはずした。形のいい胸がプルンと揺れ、その上にシャツを着た。両胸に小さい尖りができた。
(これじゃ部屋着とおんなじ…)
スカートをはき、そのしたからパンツをゆっくりと下ろした。誰も見ていないのに隠すように足をそろえていた。
(ああ…)
当然スカートの下に何もつけないことなど生まれて初めてだった。
(見えないわ…しゃんと歩けば見えない…だいじょうぶ…)
陽子はカメラバッグを取ると颯爽と背を伸ばし玄関に向かった。