第21章
陽子の電話は軽やかな音に設定している。電話が鳴るたびびっくりするのは願い下げだったからだ。それでも今の陽子の耳にはつんざくような音だった。
しびれた足を引きずりやっとの思いで受話器をとった。ヌチョッと音がし、足を擦り合わせるとヌルヌルした。
「…はいもしもし…」
「あ、本郷さん?」
男の声だった。陽子の家にはめったに男性の声は入ってこない。一瞬ビクッとした。武史は電話番号までは知らないはずと自分を押しとどめた。
「…はい…あの…どなたですか?…」
「川崎ですぅ」
「ああ、川崎君…」
「おはようございます…っていったいどうしちゃったんですかぁ?」
「え?…」
「昨日の休みから上がって今日会社にきたら本郷さん辞めちゃったってえじゃないですかぁ」
「…ぅん…」
会社の同僚だった。