第20章
また陽子は放心状態で動けないでいた。
(これでいい…もう終わりだ…バカヤロウ…)
メモリカードを抜き出してゴミ箱に投げた。とんでもない方向に飛んでいき、入らずに落ちた。
陽子はカメラバッグを引き寄せた。下のほうからつまみあげたので中に入ってる白い紙が落ちた。八つ折りのA4用紙らしかった。
(マニュアル?…)
陽子はそれを広げた。ワープロで書かれていた。
どうだい?画像は見てくれた?
楽しい夜をすごせたよね。写真を見たヨウコはなにをしてるのかな。
股を大きく開いて画像を見ながらオマンコを激しく擦りあげてる?
マン汁垂らしながら今度はお尻の穴もいじりながらイクイクって喘いでる?
いや、絶対そうだよ。ヨウコがこれを見て濡らさないはずがない。
でもヨウコ、盗みはいけないなあ。それは僕が一番大事にしてるカメラなんだ
窃盗罪で捕まるんだよ。犯罪だよ。刑務所行きになっちゃうんだよ。
黙っててあげるからぜひ返して欲しいなあ。
ところでこれをヨウコが読む頃僕は何をしてるだろう。
うん、ヨウコと同じだよ。絶対オナニーしてる。
ヨウコの喘ぎ声を思い出して、恥ずかしい格好でかわいく喘ぐ姿を想像しながらね。
簡単に思い出せるんだよ。写真があるから。
実はそのカメラ、メール転送がその場でできるカメラなんだ。
いまごろ僕は家でゆっくりヨウコの写真を見てる。
写真を見ながらモニターの前でチンポを擦ってるよ。
汚すといけないからプリンタできれいに出力したほうがいいかな?
念のためにCDに焼き付けることも忘れないでおこうね。
僕たちのせっかく出会った記念写真だからね。
いっぱい出るよ。我慢してた分、僕のザーメンはいっぱい出る。
ヨウコに負けないくらい何回でもヨウコを思って出すよ。
それじゃあね。
全身から冷や汗が出ていた。気絶しそうだった。壁が遠くに去って行ってはまた戻った。
(ああ…ああ…どうしよう…)
手紙を持ったまま両手をついた。手紙がクシャッと音を立てて握りつぶされた。
手紙があればこれを証拠に警察に飛び込めるかもしれない。
しかし問題はもっと別のところにあった。
(写真をまだ握られている…あの写真が…)
すぐにでも武史は画像をネット上にアップロードできる状態にある。陽子に抵抗する手段はないように思えた。手紙をもう一度読んだ。卑猥な言葉で埋め尽くされた最低下品極まりない手紙だった。何べん読んでも陽子への卑劣な要求はなにもない。ただ要点はカメラの返却を求めるだけの内容だった。
(あのおとこ…)
はらわたが煮えくり返る思いだった。カメラを返したときに何をされるか判ったものではない。同じ思いは二度と繰り返したくなかった。
(カメラを返す代わりに…)
だめだ。データはいくらでも複製できる。問題はあの写真だ。陽子はカメラが交換条件にならないことを悟った。泣いて頼むしか方法はないのか。持っててもいいから個人で楽しむ限りで門外不出にしてもらうしか。
(あの写真…)
陽子は画像がネット上に公開されたときのことを思った。生きてる以上どこへ行っても"あの女だ"と誰かに見つけられてそのたびに逃げ続ける人生が頭に浮かんだ。
(いやだ…それだけはいやだ…)
気が狂いそうだった。
そのとき部屋の電話がけたたましく鳴った。