第152章
静寂が辺りを包む。身体が動かない。指先ひとつ動かすことができない。結合したまま陽子は向かい合わせに男に身体を放り投げていた。
絶頂はもう絶頂でなくなっていた。武史の考えとは全く違って、陽子の身体は一向に冷える兆しを見せなかった。この時点がノーマルな状態となって明らかにその先がある、そんな感じだ。
顔を上げなくとも月光は陽子の身体を照らしていた。全身の毛穴、いや肌を通り抜けて入ってくる。身体中が透明になっている気がした。
(…あ…あ……あァ…)
光はエネルギーだ。冷たく熱い熱が体内に蓄積されていく。陽子はもう拒まなかった。力がみなぎる。意識がしだいにはっきりしてきた。しかしそれは社会に生きる本郷陽子の意識とは全く関係ない者の意識だった。別の、いままで感じたことのない別のなにかが、頭をもたげ起き上がってくるのがわかった。
(…アァ…ア、ア……)
全身が透き通っていく。手足から最後の力が抜けていった。でもすべての箇所から抜けたわけじゃない。なにもかもが一箇所に集中していったのだ。陽子は浅い呼吸を深い溜息に変えて男の頭皮へ浴びせた。
「…はあぁぁぁーー…」
…にゅ…ぐ…
(…っ…)
抱いた幼児が眠り込んだときのように、陽子がずしりと重くなったのが武史にもわかった。
しかしそのとき確かにかすかな変化を感じた。
膣の締め付けも弱くなったのである。いや、緩まったわけではない。いままでの、根元だけに感じていた入口の力が弱くなったのだ。終わった瞬間を見届けたつもりが、実はそうではないらしいことをそれで武史は悟った。
…にゅぐ…にゅち…
(…な…なんだ…)
膣の内部が動いた。確かに緩んだわけではない。入口の力が分散して"内部"に移動したかのようだ。それは初め、ペニスを外に追い出そうとするかのように動いた。しかしそのうちそれができないことがわかると、動きはゆっくりしたものになり、包む膣の温度がじわっと熱くなるのを感じた。
しだいにその原因がわかってきた。襞が集まってきている。壁が詰まって厚くなってきているのだ。そのせいか再び圧力が高まっている。
…にゅぶ…にゅ…ぐ…
全体を、均等に、厚く熱く覆い密着し…絡み付いてきている…
武史は、聴こえているのが再び早くなった自分の鼓動であることに気づいた。