第147章


排泄の繰り返しで、陽子はその数日にわたる身体的なストレスから開放されていた。すっかり身軽になったうえに、数時間の深い熟睡で体力もほぼ回復している。しかしその代わりに別のストレスがいま陽子を支配している。
陽子は欲情した雄の様をなんども見せ付けられていながら、ホテルでの夜以来女の悦びを受けていない。口を幾度も犯されても、射精を見せられ、精液の味を覚えさせられても、性器には指さえ触れられていなかった。
身体は初めてのホテルでの、気を失うほどの快感をまざまざと記憶し続けていた。そしてさきほどの肛門への刺激は別物とはいえなかった。逆に未知の快感はその欲求不満に拍車を掛けた結果となった。

"おあずけ"の状態がずっと続いているのだ。






…ぴちゅ…


ほのかにしょっぱい味がする。唾液が、鎖骨の乾いた汗を溶かし口の中に広がる。しっとりと温かい肌だった。


(…ん…)


肌が唇の震えを止めてくれた。味、という確かな実感が、どうしていいかわからない気持ちを落ち着かせてくれるようだった。


(…ん…ん…)


そして舌がもぞと動くと、その肌もぴくと揺れた。
陽子は、自らの口唇の蠢きがその対象に快感をもたらすことをこの男に会ってから習得しつつあり、この肌の揺れはそれを再確認するのに充分な役目を果たした。


(…んん…)


つながっている。この唇から相手に自分の思いが流れ込んでいくような気がする。きっと吐息は肌の中に入って、唾液はこの細胞の一つ一つに染み込んでいくのだ。その範囲を広げようと陽子は新たな"味"を求めて唇をずらした。


…ちゅ…


肌はひくひくと反応の動きを見せた。溶かしている気がした。この乾いた体は唇と舌で舐めた先から溶けていく。熱く火照った自分の熱を伝えてやるのだ。


…ちゅ…ちゅ…


「…ん…んん…」


そうだ、溶かす…。自分の身体は沸点のところにありいまにもバターのように溶けてしまいそうだ。


「…んむ…えぶ…」


そして唇はいままでより柔らかいところにたどり着いた。溶かすには容易なところだ。自分も感じる場所であることを陽子は知っている。肌の痙攣が激しくなったことからも明らかだ。
陽子は男の乳首に吸い付いた。


…んちゅ…れろ…


「…んんんっ…んんっ…」


男がか細い声で呻いた。陽子は静かに顔を上げた。男が戸惑ったように細目で自分を見ていた。


(…イイの?…気持ちいいんでしょ…)


男が目で頷いたような気がした。陽子は再び顔を下ろすと唇をまたそのつぼみに近づけていった。




目次へ     続く

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