第97章
見上げたら男が自分を見つめていた。いつから見ていたのだろうか。
ごまかしようなどできない状況だ。まちがいなく男は、自分がなにをしていたかをわかったはずだ。陽子は思った。違う。それは違う。何気なしに見ていただけだ。たまたま目を落としていた先がそこら辺だっただけのことだ。
弁解することも怖れ陽子はその場にすくんだ。そこに男の声が追ってきた。
「…陽子…僕…したくなった…」
予想はしていたが、さすがにこういう状況でだけは言われたくなかった。これ以上ない気まずさで聞こえないふりをしようと思った。
「…陽子…僕…出したいよ…」
(!…)
瞬間的に、また視線が男の股間に流れた。いけないと自分を戒め視線を上げて男の顔を見る。発情してるオスの顔だ。陽子は魅入られたまま、弱々しくかぶりを振った。
「…お…おねがい…」
「…でも我慢できなくなってきた…陽子みてたら…」
なぜだ。なぜこうも大きな声で話すのだ。いや実際大きいわけじゃない。なぜか男の囁きがダイレクトに響くのだ。陽子はかき消そうとするのか否定の意思なのか区別もつかなく、ただ首を振った。他のときならいいがいまだけは最悪だ。無関心を装うつもりでいたのに男が喋るたびにあの光景を思い出してしまう。いま抱かれたら不感症でいられる自信がなかった。
「…やっ…やめて…やめて…」
男が他のところを見ていた。よそ見をしているのではない。ベッド後方にあるくずかごを見ていた。男はそれを引き寄せると手を入れた。
「…ひっ…」
男が取り出したものはナプキンだった。危険物でも取り扱うように端っこを摘み上げ、二人の間にかざす。
「…これ…なに?…」
「…そ、それは…」
なんという失態だ。部屋のくずかごに捨てたのを後悔した。まぎれもない証拠物件だ。なんの言い逃れも効かない。
男はそれを顔に近づける。目の焦点が歪んだ。
「…あっ…あ…す…すごい…ずっしりと重いよ…」
「…や…」
男の意識がぼやけてくるのを陽子は見て取った。逃げればいいのに腰が動かない。しかし逃げるといってもどこに逃げるのか。男はナプキンを顔にあて、陽子の出した欲望の香りを堪能していた。
「…だ…だめだ…こんなの見せられたら…僕、もう我慢できない…」
「…だ…だめっ…いやあ…」
たまらずに陽子は男に手を伸ばした。下半身に全く力が入らずに、ベッドから崩れ落ちると、男が陽子の肩を掴んだ。
「…ほら…すごいよ…」
「…うっ…うむっ…」
男は陽子の顔にもナプキンを押し付けた。表面は乾いてる。しかしこれ以上ないほどの濃密な匂いが空気を支配した。
「…うむぅっ…うんんっ…」
「いまも濡れてるんだろう?…シテもらいたくってしかたがないんだろう?」
「…い…いやっ…んむっ…ち…がうっ…」
頭がじんとして理性が遠ざかっていく。男はまた自分のほうにナプキンを持っていった。
「…あのときのこと、忘れられない?…いろんなエッチなこと…」
「なっなんでっ…そんなっ…」
「だって僕の居ないところでこんなにするなんて…忘れられないんだろ?…グチュグチュのオマンコんなかに分け入ってくるの…それとも口の中で固いチンポがはじけるの…」
「くぅぅうぅぅ…」
うつむいて必死に首を振ってもかまわず男は囁く。侵み込んでくるような声だ。
「犯されたいのかい?…オマンコに突っ込んでもらいたい?…僕は入れたいな…」
「…うううぅっ!…やあぁ…」
「どっちにしろ、もうここまできたら治まらないよ…ザーメンは出させてもらう…陽子の中にね…」
そういうと男は陽子の手を取り自らテーブルの上に腰掛け、自分の両膝に乗せた。
「オマンコがいやだったら…口だ…」
「!!!!…」