第91章
(…取れて…ない…あの匂い…)
陽子は愕然とした。あれだけ体を洗ったのに鼻腔の粘膜までは届かなかったことを知った。
きゅんとなにかが身体を突き動かすような感じを覚えた。目をつぶると間髪いれずにあの射精場面がまぶたの裏に現れ、あわてて目を開いた。
落ち着いてブラのホックを留め部屋の電気を暗くし、ベッドの上に放ってある部屋着のジャージを探った。
暗がりの中で衣服をまとうと、カーテンを閉めてから再び蛍光灯を点けた。
すぐに台所へ行き、コップに水を注ぐと勢いよくうがいをした。
「…うげ…げっ…」
歯磨きもしてみた。しかし清涼感のある香料がかえって匂いを際立たせることにしかならなかった。
(…取れ…ない…取れないぃ…)
陽子は部屋に戻ってティッシュで鼻をかんだ。しかし風邪を引いてるわけでもないので何度かんでも出てくるのは空気だけだった。
「…く…うう…」
陽子は泣きそうな顔をしてへたりこんだ。そのうちに消えて無くなってくれることを祈るしかなかった。