第80章
ビデオに初SEXの後余韻をゆっくり堪能する場面は収録されてなかった。
二人の動きが止まろうとしたところですぐにシーンは、再び両足が壁に据え付けられる場面から始まった。男は膝をついて、開脚のまま固定された陽子の上で上半身だけの腕立て伏せをしようという体勢だった。
そして考える間も与えずに、男は腰を陽子に向かって撃ちつけた。
(「あうっ!」)
「あうっ!…」
二人の陽子が同時に声を上げた。画面の中の絶叫とは比べ物にならないほどの小さな音量だったが、実際に挙げてしまった声は陽子がさらに周囲を気にすることのない淫猥な沼へと引きずり込まれた証でもあった。
(「アッ!アッ!アッ!…」)
腰の動きに追いやられたように挙げ続ける陽子の声が、すぐに高みへと昇って行った。
(「アッ!ヤダッ!イクッ!またイクッ!…」)
男が腰を突いたまま動かないでいるその上で、壁際の陽子の足が指を10本すべて内側に握りこんでいるのが見えた。
(「…イッ………クッ…」)
その顔を男は理性を保った目で見守った。満足そうな表情がおもしろがっているふうにもみえる。
足の指が力を抜いて元に戻ったのが見えると、男はまた腰を突く。足が握られると男はまた動きを緩める。しかし男の視界に陽子の足は入っていないはずだ。偶然の一致かと思われたがしだいに理由がわかった。
見ずともわかるのだ。男は、陽子が絶頂を極めていることを締め付けられるペニスで感じ取ってそれを楽しんでいるのだ。
(「アッ!アッ!…まってッ!…止めてッ!…ヤッ!ヤッ!…またっ!…マタッ!…」)
(…イカされ…てる…無理やり…イカされてる…)
(「ヤッ!イクッ!…イクイグッ!…イクンーーーッ!…」)
(ああ…また…わたしまた…)
こちらのほうでは指がピストン運動を始めていた。いまでは指一本ではすでに物足りなくなっていた。身体は映像と同等の快感を欲しがっている。
この男に出会うまでクリトリスを触るだけで満足していたはずの陽子は、指を初めて二本に増やしドロドロの肉壺をこすりあげていた。
「…あぁ…イキ続けてるぅぅ…イイィ…」
(「ヤアアァッ!イクゥ!…オマンコイクゥゥーー!…」)
「…おま…おまんこ…イイ…」
男は体勢を変え、手を後ろにつき腰だけをいやらしく前後させた。結合部分がはっきりと見える。笑っていた。
(「ははっ…シオ噴いてる…射精してるよ陽子…」)
(「ヒィィーーーーッ!…オマンコォォッ!…イイィィーーーッ!…」)
「…すごいぃ…オマンコォ…イイィ…」
手元からはクチュクチュと音がしている。元の体勢に戻った男のパンパンさせる音に合わせて手元が動いた。
右手だけではあきたらず、左手の指でクリトリスを弄っていた。前かがみになって自分の犯される様子に目を奪われながら、いまこの場所で陽子は激しい手淫を行っていた。
さっきから何度も絶頂は来ていた。しかし画面の中のものとは比べ物にならない。あのときはこんなものじゃなかったと思いながら陽子は自分を慰める。あのときは世界が真っ白になるほど身体が宙を舞ったのをいまでも、いやいまだからこそ思い出していた。もはや軽い絶頂だけでは満足しきれない。いまこの瞬間だけはテレビの箱の中の自分を羨ましく思えた。
部屋には独りだけである。妄想がひとりで勝手に膨らんでいた。
いまだけは、忌まわしいはずの"この男"の身体が欲しかった。
(…も…も…っと…おか…し…て…)
画面が切り替わった。ちょっとの間だけだった。
「あっ!…」
陽子の顔のアップだ。亀頭から精液が飛び出し顔全面に振りかかる見覚えある映像だった。
そしてすぐに元の映像に戻った。
(「…イイッ!…イイッ!…チンポォーーーッ!…」)
「うっ…ぅあっ…」
また画面はフラッシュバックした。今度は口にペニスを頬張り喉を鳴らしているところだった。
…コクッ…コクッ…ゴクッ…
音をさせているのは見ている陽子のほうだった。勝手に喉がなる。口と膣を同時に犯される錯覚に陥った。
(「…ザーメン飲ませてください…」)
誓いの言葉を強制されたときと思われる音声が、その咥えてる場面に被さるのを最後に映像はまた元に戻った。
(「―――――ッ!…○マ¥ッ!…ヒ×*▲ッ!……―――――ッ!」)
犯され続ける陽子の言葉はもはや聞き取れなくなっていた。声にならない叫び声をあげながら痴呆状態のような獣の声と化している。口から泡状の涎を噴出しながら、足は何度も握って開いてを繰り返していた。
しかし陽子にはなにを言ってるのか確かに理解できた。声を長く伸ばしているときになにを思っているのかさえも手に取るようにわかる。
おそらく事実は違うだろう。犯され続けて拒絶と快感が混ぜこぜになって言葉はとうに意味を失っていたのかもしれない。
しかし達しきれないいまの陽子は、映像中の女にとっての代弁者になっていた。思念の一部をこちら側は過必要に増幅させる。
「…お…犯して…もっ…と…」
溢れ出てくる唾液が口の中でクチュクチュと音をたてる。出し入れを続ける指達と一緒に、部屋全体は淫猥な調べが充満した。
「…も…っと…あ…チンポ…オマンコに…オマンコ…もっと…」
男がうめいた。縛られた陽子はいっそう高まった声を上げた。持ち上がった尻から白い精液がこぼれた。それでもなお、男は動きを止めなかった。
「…あ…あ…ざあ…めん…ザーメン…ザーメン…せいえき…ザーメン…」
男はまたも陽子の中で射精している。陽子はその溢れるものに目を奪われながら、もの欲しそうに繰り返した。
「…ザーメン…欲しい…精液…飲ませて…チンポ…せいえ」
がさっ…
「!!」
突然の異音にそのほうへ振り返った。台所にある壁の窓に呆然とした表情の武史が立っていた。