第76章


受話器を置いていた手をそのままにしばらく陽子は玄関の郵便受けを見つめていた。そしてゆっくりと立ち上がった。下半身裸のままで玄関に近寄っていった。
鍵がかかってるのを確かめ、おそるおそる郵便受けの中を覗き込んだ。取り出すと結構大きな封筒だった。そして朝のと同じようなレターサイズの封筒も、今度は2通入っていた。計3通のどれも表面には何も書かれてなかった。

証拠の指紋に触れないかのように端っこをつまんでテーブルまで持ってきた。大きな封筒がごとっと軽い音を立てた。中身は紙類ではないようだ。

しばらく正座して見つめていた。テーブルの上、向こう側には出がけに放ったあの、"手"の写真が斜めに置かれている。


(…また…同じような…)


このまま捨ててしまおうかと思った。しかし一人だけの部屋で、不安と好奇心がない混ぜになっていた。明らかに写真ではない封筒の中身が気になった。陽子は大きい封筒を開封した。


(…写真じゃないなら…)


口を開けてお尻を持ち上げると中身がごそっと滑り出た。一本のビデオテープだった。


「ひっ!…」


ずざざっと正座が退いた。声が出ない。両手を床につき、陽子は白いケースに入ったなにも書かれてないテープに目が釘付けになった。


(…あ…あの…ビデオだ…ダビング…したんだ…)


その中の映像は想像に難くない。あの夜のものに決まっていた。
陽子は自分が追い詰められてる事を改めて確信した。もはや援助されるされないの問題ではない。揺るぎない過去の現実がその黒い箱に詰まっていた。


(…じゃ…じゃあ…)


陽子は小さな封筒に飛びついた。細かい事を気にする余裕はなかった。しかし心臓がどきどきしてるのは危険信号だけではなかった。
封筒には一枚づつの写真が入っていた。一つめを開けた。


(!!!――――っ…)


写真の方向はすぐにわかった。風呂場で撮った写真だった。これも全体の一部分だけ拡大してある。正面右半分に水道とシャワーがある。左半分は鏡が、やはり右のほうは切れていた。
鏡には椅子に縛られた陽子の片方の足が写っていた。向こうにはやはり縛られた大きな乳房がある。腿のところで切れているのでぎりぎり股間までは写っていない。
そしてこの写真は前のものほどボケてない。それほどの拡大ではないのかピントはしっかりと合っている。拡大したというより半分を切った感じだ。

と言うのは…見えるのだ…点々が…

鏡に付着した茶色の点々が、あまりの暴発に激しく飛び散った無数の飛沫が鏡の右下角に貼り付いているのだ。


(…いやっ!いやっ!…いやっ!…いやあっ!…)


足の指が5本とも離れて開いているのは陽子がいま力んでいる証拠なのだ。
おなかの苦痛を外に排泄するあの、悪夢の感覚が甦った。

写真を投げ出すと陽子はもう一通の封筒に飛びついた。手ががたがたと震えている。矢も立ってもいられず端をびりびりとちぎった。


「…あああ…あ…」


がくんと肩が落ちへたりこんだ。口のアップだった。あんぐりと大きく開いた口腔内に白い液体がとっぷりと池を作っていた。下顎にピンクのてかてか光る亀頭がのぞいている。鈴口の切れ目から池までに、白い粘り気のありそうな太い糸が繋がっていた。


「…ああ…あああ…はあ…はあ…」


泣き声か叫び声か、高い声から音程が低くなっていった。
腰がぶるんと揺れた。




陽子は3枚の写真を見ないように集めて、瞼を閉じながら力なく引きちぎった。他人に見られまいと封筒の一つにまとめ入れて、さらに大きな封筒に、ぐしゃぐしゃと丸めてくずかごへ捨てた。


「…はあ…はあ…」


破り捨てても3つの画像が頭から離れない。いくら排除しようとしてもあとからあとから湧いて出てくる。
ビクビクと震えるペニスから口の中に飛び出してくる精液の感触、足を開いて縛られ便を噴き出す苦痛からの開放と羞恥、手を縛られて激しく犯されるときの性器への圧力と摩擦。順不同に何度も繰り返される記憶を甦らせながらビデオテープを見ていた。


(…これに…全部…)


上書きして消してしまおうと思った。陽子は電源を入れてテープを差し込んだ。画面にCMが流れてリモコンを手にし、テーブルの元の位置に戻った。


「…はあ…はあ…」


ぶるぶると手が震えていた。両手でリモコンを持ち録画と再生のボタンに両親指をかけてデッキに狙いを定める。


「…はあ…はあ…はああ…」


(…こ…これ…これ…これに…ぜん…ぜんぶ…)


動いた親指は片方だけだった。ブラウン管右上に"再生"の文字が出て画面からCMがかき消えた。





目次へ     続く

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