第66章


ベッドに頭をもたげ突っ伏していた。いつのまにか眠っていたようだ。ぼーとした頭でぺたんと座ったまましばらく宙を見つめていた。ゆっくり体を動かすと時計がもう午後2時を指していた。


(…もう職安も無理か…)


とりあえず気分をすっきりさせようと洗面台に向かい、冷たい水で顔を洗った。
ベッドに戻りテレビをつけて腰かけた。なにやら体がけだるい。少し熱があるように感じた。
テレビではお昼を過ぎて落ち着いた世の中をおもしろがらせようと、各局がワイドショーに興じている。芸能人の離婚、どこかの地方でいい年をした社会人の、不倫の末に起こした傷害事件、はたまたペットの無差別な虐待殺害、どれも陰鬱な事件ばかりを報道していた。コメンテーターは感想を振られるたびに不況を原因に仕立て上げようとするエセ経済学者、しまいには自称心理学者がわけのわからない心理テストなるものを出演者に掲げ、これそれは深層心理の欲求不満を表すものだと、なにを根拠にしてるのかわからない半端なゲームをフリップで説明し始める。

くだらないな、と横目で見ながら溜息をついた。そしてさっきから空腹を感じているのに気づいた。

(冷蔵庫に何かあったかな…なにかつくるか…)

テレビを消し、立ち上がろうと目を反対側に向けた。そして見慣れぬものが目に付いた。もとはこの部屋は全部がフローリングだった。足元のカーペットは陽子が入室して自分で敷いたものだった。そして部屋のこちら側半分全部をそれは覆いきれてない。バスルーム入り口の洗面所から向こうのダイニングに向かって斜めにフローリングを這う水滴があった。


(わたしお風呂出てからそっちに行ったっけ…)


ふきんを取るまでもないと陽子はティッシュを2、3枚抜き取ると腰を上げようとした。


(…!!…あ…あ…)


思い出した。あれは風呂上りの水滴ではない。ナメクジが這ったようなその水分の道は、バスルームから出て行くものではなく、陽子が今朝帰ってきたときに這いながら逆にそちらに向かっていった、足跡ともいえるものだった。


(…こぼれたまま残ってたんだ…)


ふき取ろうとそちらの方向へ進んだ。向こうのスペースに視野が広がる。想像はしていた。棚の足元にひときわ大きな水たまりがあった。


「…いやあ…」


立ちすくんでしまった。それをみつめたまま頭が横に何度も振れた。


(…もうやだ…もういやだ…もうやめて…もう思い出させないで…)


しみこむことのないフローリングになみなみと盛り上がって水たまりが残っている。

かがんで急いでふき取ろうとした。液は全部が透明ではなく、なかに白いものがタプタプと泳いでいる。もってきたティッシュではぬぐいきれなかった。粘液がしみこみきれずにべっとりと手にはみ出してくる。

立ち上がっても見上げている。今朝の陽子がこちらを見上げていた。棚に手をつき、丸出しの股間を大きく開きながらしゃがんでいる。見せつけるように床に粘液を何度も垂れ流している。


(…わたし…我慢できずにこんなところで…)


苦悶の表情だったはずだ。空に助けを求めて涙を流していたはずだ。けっして、けっして…


(…そんな…そんな…絶対に…)


…恍惚の表情など見せていなかったはずだ。





…絶対にこんな顔じゃない…






目次へ     続く

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