第59章
まだ中学生で親と一緒に暮らし一人暮らしもしていなかったころ、家には猫が3匹いた。白いふわふわした毛のチンチラで、よくいつのまにかひざに乗ってうずくまっていたのを思い出す。
親は猫と一緒に眠る事を好まなかった。だから寒い冬の夜には、わざと少し空けておく部屋の扉から猫は陽子の頭に寄り添って寝た。
一匹また一匹とひょいと陽子の胸の上に飛び乗り、喉をゴロゴロいわせながらベッドメイクをする。ほっておくと陽子の顔の上に陣取ろうとするものもいた。笑って窒息から逃れると襟巻きのように首に横たわるものもいた。
ケモノ独特の匂いもそう気にはならなかった。なによりも包まれる感じがたまらなく心地よかった。
気持ちよかった…匂いも…覆い被さられていることも…身体にはさみこんでいるものも…
うっすらと陽子は覚醒した。ぼんやりとした意識の中で自分とは違う呼吸をしているものをそばに感じた。
うずくまっている。自分は胎児のように横になってうずくまっていた。どうやら目の前のものに抱きついているようだった。抱き枕を抱くようにしがみつきながら眠りこけていたようだった。
空気がいつもと違うのに気づいた。自分だけの体臭ではない。なんともいえない生臭い匂いをずっと前から感じている。
うっすらと目を開けた。目の前に自分がしがみついてるものが横たわっている。焦点が合うとふくらみのない胸の上に乳首があった。
(…私の部屋じゃない…)
無音の空間で陽子は次第に意識を取り戻していった。
(…夢か…ここは…ホテル…なんで…)
(はっ!…)
陽子は首を上にもたげた。無垢な顔で眠りこけてる男の顔があった。二人は抱き合ったまま眠っていた。
(…あ…あ…)
布団は仲良く肩まで掛けられていた。二人は横に向かい合ったまま体重を寄りかかりあいながら足を伸ばしていた。武史の手が上から陽子を抱え込むように背中を抱いている。もう一方の手は腕枕しながら頭を胸に抱いていた。
手枷足枷は外されているようだ。しかしそれでも問題は陽子のほうだった。右手は同じように武史の背中に回していた。そして右足も上から男の後ろに巻きついている。お尻にあたっている人肌を感じた。おそらく武史の右足は上からではなく陽子の足の間を抜け、膝を曲げながらお尻にあたっている。
そして陽子の股間は開いてるにもかかわらずその中心部分になにかを挟んでいた。いや、足を開いているのだからなにかを挟むことは有り得なかった。
そう、挟んでいるわけではない。
つながったまま寝ていたのだ。
(…あ…あ…や…)
思わずピクピクとその部分が動いてしまう。中のものはさすがに小さくなっているようだった。寝ている間に隙間から垂れ続けていたのだろう、つたい降りた液が尻たぶと腿に乾いているのがわかった。
…プチュッ…チュチュッ…
動かすとまだ中に溜まっている淫液が新たに流れ落ちる。
(…や…や…)
武史の膝は陽子の背中までぴたりとつけられ二人の股間は完全に密着している。
身体を離そうと巻きつけた足を降ろそうとした。しかし痺れたためか動かない。もう一方の下の足は自由だった。駆使して這いずって離れようとした。
しかし離れない。身体が後ろへ行ってくれないのだ。腰の後ろが固定されている。ロープではないがやわらかい布のようなものが二人の腰に巻きついている。
密着して離れないように何時間もずっと結合させられていたのだ。
(…や…あ…あ…)
拘束を解こうと腕を武史からずり降ろそうとしたときだった。
「…ん…んん…」
「…はっ…」
武史がむずがるような声を出した。凍りついたように陽子は息を飲んだ。武史の脇の下で手は止まっている。武史はまだ眠りからさめていないようだ。
(…ほっ…)
武史が再び寝息を立てるまでと、息を殺して時間が過ぎるのを待った。ゴクッと喉が鳴る。
(…!!…)
口の中がネトネトしている。嚥下したのはまぎれもなく男の精液だった。顔中にその液体が乾いてパリパリと音を立てそうに思えた。感じている匂いはそれのみだった。口の中も鼻の中も武史の精液で覆い尽くされていた。
口の中で暴れまわり、白濁を噴射し続けた昨夜の乱行が甦る。自分はみずからそれに舌を這わせ、排泄し続ける淫液を飲み下した。その味と匂いはいまなお続いている。
(…やああ…やああ…)
…ぷちゅっ…ぶちゅちゅっ…
股間で同じ液体がトロトロと流れ落ちる。手が再び武史の脇をすべる。
「…んんん…んーー…」
(…ああ…起きないで…)
…むくっ…むくくっ…
(…はっ…あっ!…ああっ!…)
股間に変化があった。中のしぼんだはずのペニスがふくらみを増した。
(…動いてないっ…なにもしてないのにっ!…あっ!…ああっ!…)
…ムクムクッ…ムクッ…
…ピチュピチュッ…プチャッ…
たちまちペニスは中からはちきれそうになって膣を圧迫した。まるで喘ぐように入り口がパクパクと動く。
「…あああ…あはあっ…」
陽子は手を振り解いて腰回りの拘束を解こうと布に手を伸ばした。顔を下に向けても布団に覆われて肝心の箇所は見えない。結び目を手探りで探した。
「…おはようヨウコ…」
顔を上げると武史のやさしい目が陽子を見つめていた。
頭を抱き寄せられ、二人はくちづけを交わした。
「…んふ…んんんん…」