第45章


武史は陽子を椅子の上に丁寧に降ろした。拘束された足は地に着くことはできなかったが、椅子は大きかったので足は尻と一緒に置くことができ、陽子は足を閉じたまま背もたれに身体を預けることができた。正面向こうに洗面所とそれに続くバスルームとトイレの扉が見えていた。


「…はずして…シャワー…」


武史は紙袋を足元に持ってきて置いた。陽子の片方の足枷から手首をはずした。そしてリングをつけたままの左手を背もたれの後ろに持ってきて武史は紙袋をガサガサさせた。手にときどきなにか固い布のようなものが触れた。ギッギッと音がして武史は離れた。陽子の手が動かなくなった。

もう片方の枷もはずされた。そのとき武史の手にそれが見えた。20CMぐらいの短いロープだった。


(…しばってる!…私の手縛られてるんだ!…この椅子に!…)


手に力を入れて抵抗した。しかし武史は難なく同じように手を後ろに回すと、陽子の腰のすぐ下の、椅子の後ろ足根元にロープでリングを結び付け固定した。

陽子はよろよろと椅子から足を降ろしばたつかせた。武史が正面に来るとしゃにむに弱弱しく蹴りつけた。


「…なにを…なにをっ…今度は…やめてっ…」


武史はばたつく両足を自分の腹につけた。陽子が押し返そうとしても武史は動かなかった。武史はそのまま陽子の両足枷に新しいリングをつけた。リングからは新たに長いロープが二本それぞれ伸びていた。そしてロープをそれぞれ椅子の肘掛にくぐした。

陽子の腰を椅子からずり落ちない程度に手前に引き寄せてやり、武史は足元の紙袋から陽子も見覚えのある薬品瓶を取り出した。両膝は屈伸状態で武史の腹に押し付けられている。片手には肘掛から伸びたロープが二本まとめて握られていた。


(???…)


「…ヨウコ…グリセリンの使い方知らなかったんだよね…教えてあげるよ…」


(????…)


「…消毒液じゃあないんだ…ヨウコが勘違いしてるのはたぶんクレゾールだよ…あれは確かに消毒液…グリセリンはね…ほらここに…」

(??????……)


武史が陽子の目の前に瓶を持ってきた。正面に大きく"グリセリン"と書かれてある。
瓶がすこし回った。用途が小さな字で書かれていた。


"浣腸、肌荒れの防止"


(!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)


「浣腸してあげる…ヨウコ…そらっ…」


陽子の目が恐怖に見開いた。武史がロープを一気に引き上げた。股が開いてひざが曲がり胸に近づいてくる。両足が武史を離れ持ち上がり椅子の肘掛にくっついていく。


「いっ!…いやーーーーーー!!!!!!!!!いやーーーーーーっ!!!!!!!」


武史は瓶を置くと足をそのまま肘掛けに固定した。引き上げたロープの余った部分でひざも肘掛に固定してやった。武史はまた別のロープを手にすると、今度は椅子とは関係なく陽子の胸をはさむように、しかし背もたれとは一緒ではなく上下ぐるぐる巻きに縛った。

椅子の上で陽子は暴れた。しかし身体は椅子と一体化したようにしっかり固定され、身動きがかなわなかった。動かせるのは手足指と頭だけだった。椅子ががくんがくんと揺れた。


(…助けてっ!!…助けてっ!!!!…)


武史がそばを離れた。バスルームに入っていった。


(…動けないっ…動けないっ…荷物みたいに…わたし…縛られてるっ!!…)


かろうじて重心の移動で椅子がガクガク揺れるだけだった。バスルームから武史は出ていた。カウンターの向こうのソファーでなにかガサゴソやっている。


(…か…かんちょうなんて…そんなっ…く…くるってるっ…)


陽子は普段から便秘がちだったがそんなにひどくはなかったほうだ。ひどくても3、4日たてば通じがあった。友達がイチジクを手放せないと聞いたことはあったが、陽子の思い出は幼少のころにしかなかった。たしか熱が出て母に医者に連れられていったときに一回だけ処方されたことがあったきりだ。お尻に入れられてすぐ我慢できなくなり、トイレに駆け込んだのを覚えている。おなかがゴロゴロといい出したときの気持ち悪さがかすかな記憶によみがえった。


(…こんな…かっこうで…浣腸なんて…浣腸されるなんて…だれか…誰か…誰か…たすけて…)


武史が戻ってきた。股間のペニスがいつからかまた大きくなっていた。腹につかんばかりにいきり立っている。手にはバスルームから持ってきた洗面器があった。
武史はビデオカメラをカウンターの上に置いてアングルを調整した。
陽子の前に立って洗面器の中から大き目のものを取り出した。注射器だった。
いや、注射器にしては大きすぎる。先に針もついてなかった。先には注射器にはないくびれがあった。状況が示すものはただひとつしかなかった。


「…いや…やめて…」


ガラス製の浣腸器だった。




目次へ     続く

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