第4章

男はすぐに見つかった。緑のバッグを持っていた。
立ち止まってバッグをちらりと見た。


「ヨウコさん?」

「…はい…」

「ま、どうぞ。はい、メニュー。おごりでいいよ。食べよ。」

初めて会う人といきなり食事。陽子はそれだけで緊張していた。メニューから探すのも落ち着きがなく男をちらちら見ていた。男は和定食。陽子は洋セットを頼んだ。
年のころは30ちょっとすぎたくらいかなと陽子は思った。悪い人ではなさそうだった。でもちょっと太りすぎな感じがする。眼鏡もセンスより実用性を選んでる感じだった。陽子の好みのタイプとは大分違った。"すてきなかれし"なんてなかなかそういない。食事するだけで終わりかなと思った。

「はじめまして。武史です。驚いちゃった。すぐに連絡が取れるとは思ってなかったから。」

武史はなにかゴソゴソとバッグから取り出していたようだった。

「振られちゃったんだっけ。あ、ごめんごめん。でもこれからは独りじゃないからね。僕がいる。」

私の意志も聞かないで傲慢な人だな、と陽子は思った。

「あの…」

そのとき、ぱっとあたりが明るくなった。一瞬である。陽子は気のせいかと思ったが言葉が続かなくなった。

「ん?どうしたの?」

「いえ…」


なんだろう…。

男が世間話を続けているうちに食事が運ばれてきた。
武史の食べ方も気に入らなかった。じっと陽子のほうを見ている。ときどき獲物を食い入るように見据えてるような気がした。

武史が言った。

「ところでヨウコはなにが好き?」

「えっと音楽とかあと…」

「浣腸とかは?」

「…?…」

陽子は耳を疑った。それまでと同じ調子だが武史の口から出たのはまったく違う趣のセリフだった。陽子のナイフとフォークが止まった。内容がすぐにはつかめなかった。言葉に詰まった。

「男のザーメンは好き?いっぱい浴びるのがよかったら準備してあげるよ」

「…あ…の…」

「バイブで責めてあげるといくらでもイキますって顔してるよね。」

「…」

陽子は武史がなにを言ってるのかやっと理解した。武史の声は次第に小さく陽子の耳にいやらしい言葉を投げかけてきた。
陽子は目を伏せた。おんなじだ。他の伝言の男とおんなじだ。私の身体が目当てなんだ。私の身体を弄ぶつもりなんだ……。とりあえずナイフとフォークを置くとすかさず武史が右手で陽子の両手を握って引き寄せた。顔がすぐそばに近寄る。武史の声は囁きに変わった。

「どんな声あげてイクのかな?…」

「!…」

そのとき陽子の身体に変化が起きた。全身熱くなった身体から下半身に汗じゃないものが零れ落ちた。ジュッと音がしたかのようだった。
武史は陽子の真っ赤になった顔を見てすぐさま両足を陽子の両足の中に滑り込ませ、一気に開いた。そしてまたあたりがぱっと明るくなった。陽子と武史はテーブルの上で両手を合わせ相談しているような体勢になった、

「露出も好きなんじゃないの?」

武史が股間から取り出したものはデジタルカメラだった。そして机の上でカメラをなにやらボタンを操作した。

「さっきから君のスカートを撮っていたんだ。ほら最初から少しシミができてる。」

陽子はカメラ裏の画像を見せられながらさっきからの光はこれのストロボだったことがわかった。

(出かける前の!…あのいやらしい伝言でできたシミだ!)

「いま撮ったのがこれだ。しっかり写ってる。あは、シミがひろがってるよ。」

ここがレストランという公衆の面前だと陽子ははっと思い出した。

「や…やめて、そんなのこ…こんなところで出さないで。」

武史がまたシャッターを押した。今度はストロボは光らなかった。

「赤くなったヨウコの顔もかわいい…」

顔も撮られた!!!そんな…どうしよう…
武史は続ける。

「これぐらいで濡らしちゃうんだね。よっぽど男が欲しいと見える。そんなに僕のチンポしゃぶりたい?」

初めて目前で音声にして聞くいやらしい言葉に陽子は震えた。

「そ、そんな…あ、いや!」

また股間から液があふれ出た。しかも今度は足を開かれたままで。見透かしたように武史はまたシャッターを切った。

「やめて…わたしそんな女じゃないです。それデジカメでしょ。撮ったもの消して…」

「シミが大きくなった。嫌がっても感じてるんじゃん。へーそういうのが好きなんだ」

「わたし…ちがう…そんな…許して…」

「だったら言ってごらん。消してあげる。オマンコ濡れてますって。」

「そ、そんな…いや、そんなこと…」

「それじゃあ帰ろうか。ネットで公開しなきゃなんないし。」

「だ、だめ。それだけは許して。お願い」

「君しだいだよ。」

大勢がいる前でそんなことはいえない。生まれてからそんな言葉口に出したこともない。死にたい気持ちだった。でも言えば写真はなくなってこの男ともこれきりにできる。陽子はここから逃げたいだけだった。

「…オ…オ、オマ…オマ…ン…コ…濡れてます。」

「ヨウコのオマンコぐっしょり濡れてますだ。」

「よ、よ…陽子の…オ、オマ…ン…コ…ぐ、ぐ…ぐっしょ…り…濡れ…て…ます。」

武史は陽子のはずかしさにうつむいた顔と、テーブル上の半身からは思いもしない格好の下半身を撮り続けた。

「わかってる?シミがどんどん広がっていってるよ」

「い…いや…しゃ、写真…消し…て」

「わかった。最初の一枚はもったいないけど消そう。」

「そ、そんな…ぜ、全部…消してよ。卑怯だわ。」

「人にお願いするときはって教えられなかった?」

殺してやりたい。悔しさにそう思ったが今は従うしかなかった。

「お…お願い…しま…す。ぜ…ぜん…ぶ…消して…ください。」

武史は足を元に戻した。陽子はそそくさと身づくろいをした。周囲はさっきのままだ。誰も気づいてないらしい。
武史は残りの食事を済ませると立ち上がりレジに向かった。

「あ…あの…」

すたすたと支払いを済ませるケンジに陽子は後をついていくしかなかった。

「クルマ?」

陽子が答えに詰まっていると

「じゃあ、僕の車で行こう。」

と陽子の手をとった。
二人は武史のワゴン車に乗った。助手席のドアの取っ手から二本のロープが結ばれて出ているのに陽子は気づいた。ドアに挟まらないようにポケットに入っている。

(なんだろこれ…ドアの締りが悪いのかな…子供でもいるのかな…)

しかしそんなことは今気にすることではない。ばたんとドアが閉まるとたん陽子は言った。

「消してよ!あの、消して…ください。お願いします!。」

「この車土禁なんだ。」

「あ、はい…」

陽子は白いスニーカーを脱いだ。
必死だった。車に向かう途中で陽子は自分が今どんな状況に陥っているのかやっと理解できた。弱みを握られたのだ。いまは写真を消してもらうまでいうことを聞くしかない。

「消すさ。でもちょっと寄り道していこうよ」

いう…ことを…聞くしかない。でも相手は変質者だ。頭がおかしいんだこの人。なんとかしなければ。

「もしかしてこういうの、初めて?」

「あ…あたし…は…ただ…ただ…ウッ…」涙が出てきた。

「なんかホントみたいだね」

「もう…帰して…ヒック…」

「こりゃあ、大当たりだな。帰さないよ」

武史はすばやく陽子の上体を前倒しにして両手を取った。そしてまた言った。

「素質あるよ。ヨウコ…」



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