第31章

もうこのフロアには誰もいなかった。オフィスも全部閉まっていた。陽子は小走りでエレベーターに向かった。さすがに息切れはしなかったが胸の動悸が早くなった。ちょうど風邪を引いたときのように熱で身体が浮くような感じだった。

陽子はエレベーターの呼び出しボタンを押した。
そのとき指でボタンをチョンと押した動きが衝撃となって身体を突き抜けた。


「あぅっ…」


小さな声がもれて陽子は両手でお腹をおさえバッグを落とした。ズクズクと全身に血が這いまわっていた。身体全部の毛が逆立っていた。

(…く…くすりだ…あの…)


バッグを拾おうと身体を動かすと乳首がシャツにズリズリと音を立てて擦れた。

(ちょ…ちょっと…あっ…)


股間がまた液を吐き出し始めているのがわかった。乳首と股間の奥にほのかな痒さを感じながらその3点だけが拡大されたようにジンジンと火照っていた。

(…うっ…あっ…)


やっとバッグを拾い体勢をたてなおしてエレベーターを待った。止まるかと思ったそれは上階から下へ通り過ぎ、一階で停止した。

(…はやく…はや…くぅぅ…)


動けなかった。うなづいただけでも一挙一動が身体を揺さぶるのがわかった。

(…あああ…おねが…い…)


3Fまで昇ってくるのが永遠に長く感じられた。
チーンと音がしてエレベーターの扉が開いた。しかしそこには2組のカップルと一人の男が乗っていた。カップルが奥壁を背にしこちらを向き、男は横壁に腕組みをして寄りかかっていた。

(…いやああ…)


陽子は立ちすくんだ。

「?…乗らないの?」

横に寄りかかった男がボタンに手をかけながら言った。このままやり過ごしても変に思われるだけだ。しかも時間はない。

「…あ…は、はい…」


陽子は箱の中に入っていった。歩行の衝撃が全身を刺激した。足がヌルヌルしていた。
箱の中心に入って振り向くとドアは閉まった。

横の男が陽子を見ていた。後ろのカップルがひそひそとふざけあっていた。横の男が胸の部分を見てるような気がした。

(…ああ…ああ…スカートは濡れてないはず…濡れて…ない…そこ…そんなトコ…見るのやめて…ああ…)


股間から液がいっそう多く流れ出していた。

エレベーターが最上階についた。箱の外へ出て陽子は横に退いて3人が前へ進むのをやり過ごした。展望台には数組のカップルが一面のガラス窓の手前に設置されたベンチパイプにそれぞれ座って肩を寄せ合っていた。さきほど横にいた男はあいているパイプに腰を下ろしてタバコに火をつけた。待ち合わせでもあるのだろう。フロアにもまばらに人がいて壁に貼られたどこぞの小学校の展示物やポスターを鑑賞しながら談笑するのもいれば、壁に寄りかかってひとり広大な景色を楽しんでいるものもいた。

(時間がない…)


展示物を眺めごまかしながら陽子は周囲を確認した。奥の角の地べたに置いてある茶色の紙袋をすぐに見つけることができた。すぐ横に先ほどの男が座っていた。

(あれだ…)


陽子は周りに気付かれないようにそろりそろりと足を運んだ。
近づくとそれは透明樹脂でできたついたての向こうにあった。ついたては陽子の腰ぐらいの高さまであった。
陽子はそうっとしゃがむとついたての下から手を伸ばそうとした。足首がお尻にあたってぬめりを感じた。手首までしか入らなかった。

(う…上から取るの?…)


どうなるかはすぐに予想がついた。紙袋を取れば陽子の足は地面を離れる。折りたたむように身体がかがむので、めくれ上がらなくてもスカートの中は一瞬チラッと見えてしまう。たとえ全部は見えなくてもしとどに濡れそぼった足は晒されることになる。

(…そ…そんなこと…)


陽子はしゃがんだまま周囲を見回した。景色をぼうっと見ながらタバコをくゆらせている男がすぐ横にいる。ポケットからは携帯のストラップがはみ出ている。少し離れた壁には一人の男がこれもタバコをふかしながら片足を上げてこちら方面を見ながら寄りかかっていた。

(こんな目立ったことしたら…みんな振り向く…スカート捲り上げて…自分で丸出しにして…ノーパンで濡らしてるわたしの…アソコを…みる…みられる…みら…れる…)


…ジュッ…


(でも時間が…じかんが…)


…ジュジュッ…


(…あああ…)


陽子はバッグを横に置くと意を決してたちあがり上半身をついたての向こうに投げ出した。速攻だった。
しかしそのとき身を乗り出した拍子にスカートの前がついたての上に引っかかった。めくれ上がり股間の前はそれこそ剥き出しになった。

(うっ…うあっ…)


それでも陽子は紙袋を取ろうと身を乗り出した。足が少し宙に浮いてお尻にかすかな風を感じた。

(みらっ…みなっ…でっ…くっ…くくっ…)


紙袋をガッと掴んだ。すぐに上半身を起こして足をトンと地につけた。全身に電撃が走った。

…ドプッ…


またしゃがむとすぐに周囲を見渡した。横にいた男は何気もなく前を向いたままだ。しかし壁の男がこちらを見ていた。一瞬目が合って陽子は目をそらした。そらしたあと男もまたしずかに窓に目を向けた。

(ああっ…みている…みられた…みら…ああっ)


ドプッ…


ドプッドプッ…ドプッ…


立て続けに股間が震えた。止まらない…

(くああ…)


ドプッ…ドップッ…


全身が燃えているようだった。股間から床に糸が伸び始めるのが見えた。

(…やだああ…)


陽子は何とかつまづきながら立ち上がりこの階のトイレに向かった。
だが入り口で鏡に向かって化粧を直してる女性を見て、またエレベーターに引き返した。

足がネチョネチョと音を立てていた。





目次へ      続く

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