第175章
(…逃げてる…)
酒宴に持ち込めばまたこの前の通り。完全に陽子が主導権を握る。
いやらしいことはもう嫌か。あんなに感じてたのに。もう飽きたのか。あんなに濡らしてたのに…
「…」
いつしか武史は陽子のことを無言で見詰めていた。そして陽子はいたたまれなくなったように下にうつむいた。眠っていた悪魔があくびをしながら起きた。
(…怖じ気づいたん…じゃないのか?…)
いままでの行為、そのすべてが陽子の範疇にあるとは思っていなかった。ローターの存在も知らなかったことは気がかりだが、それも含めてソフトなものを考えていたかもしれない。しかし武史は欲望のままに陽子の意図しないものまでこじ開けた。事前の打ち合わせがなしくずしになかったのが原因だが、もうその暴走は止まらない。羞恥心を揺さぶられるのに感じることはもはや明白。陽子が自分の中にそんな欲望を見出していたかはわからない。いやきっと無意識にでも潜在を感じていたからこそ伝言ダイヤルに手を出したのではないだろうか。加えてアナルの開発は自分が初めて手がけたと武史は確信を持っている。間違いなく陽子は感じていた。アナルといわず陽子は自分の責めに大いに反応する。自分の身体に吸い付いてくるのがその証拠だ。
まさかそこまでするとは思ってなかったのだ。気付いてみてこう陽子を目の前にしてみるとよくわかる。反応してしまう自分に罪悪感を感じているからこそ、ノーマルな方向へ軌道修正したがっている。
しかし…果たしてそうか。
陽子は自分自身がこれ以上変態になっていくのを怖れている。しかし、うまく言えないが同時に…誘っている雰囲気もあるのだ。ぽつりぽつりと雑談が続いているがときどき陽子はうつむいてはにかむ。変態の自分になぜそんな目を向ける。やはりばかにしてるのか。それとも…嫌だとはいっても期待しているのか。
どっちなのかわからない、どっちなのか…。武史は身体が熱くなっていくのを感じていた。
(…どっちもじゃないのか?…)
ごくりと喉が鳴った。
(…望むところだ…こっちもそのつもりで来たんだ…)
「こう外に出ないと曜日の感覚忘れちゃいそう。」
「じゃあ今日は外に出ないか。」
「え?」
「ドライブ。どっか行こう。」
「うん!」
嬉しそうな返事に逆に武史のほうが戸惑った。
「ちょっと着替えするから向こう向いてて。」
「あ、はい。」
武史は壁のほうを向いた。
(なに考えてんだ…)
さんざん身体を晒しておいていまさらなにを恥ずかしがることがあるのか。わけがわからない。わからないのは自分もだ。反射的に壁を向いてしまった。なんで素直に言うことを聞く。熱いのが腹から胸に移ったようでドキドキしている。
(…なに考えてんだ…)