第146章


(…月…)


暗闇の中でぽつんと孤独に光を放つ月。なぜこんなに強い光なのに世界は闇に包まれているのか。吸い込まれそうな光だった。


(…お月さ…ま…)


そう、きっとあの光は周囲を照らすために輝いてるのではなく、見ているものを憑り込もうとする光なのだ。


(………)


お月様には二羽のうさぎが餅をついているという。子供の頃に何度かその形を探したのを覚えている。陽子はいままたその面影を追った。


(…いないなぁ…)


頭も耳も探せない。やはりあそこはなにもない死の世界なのか。


(…熱…い…)


そんなことはない。光り輝くあんなきれいなものが生きてないなんてはずがない。
私は知っている。お月様は私を見ている。お月様を見ているのは、きっと世界中でいま私一人だけだ。だからそれを知っててお月様は私だけを見つめているのだ。


(…お月さま…見てるんでしょ?…わたしだけ…を…)


ぼんやりした視界がどんどん月の中心に集まる。窓もなにもかも消えうせ、心が光に吸い寄せられていく。


(…つよ…すぎる…熱い…)


光が身体を包み込む。布団は遮る役目を全く為していなかった。目だけではなく、照らされた箇所から細かく光子が侵み渡ってくるような気がする。


(…つよい…そんなに照らさないで…そんな…もうこれ以上…)


光そのものは冷たい。しかし光の粒は身体の奥底で熱く撥けた。どんどん身体が熱くなる。


(……いや……見つめないで……)


おへその奥あたりに熱の中心がある。固まりが熱したバターのようにドロドロに溶けて、沸騰するマグマのようだ。


(…う…うふぅ…うぁ…)


光を受け全身に力がみなぎってくる。ぐぐっ、ぐぐっと腹部の筋肉が揺れた。


(…あ…あは…あん…は…)


抑えきれない。細胞のひとつひとつが光で沸騰していた。溢れた熱がおなかにすごいスピードで集まってくる。熱を逃そうと唇が開いた。吐息までがすごく熱い。

陽子は視線をそらした。いや視界にはずっと入っていた男の肩に焦点を移した。それでも光から逃れることはできない。


(…も…もう…)


今度は意識が男の身体に集中する。なんの考えも記憶もなかった。なにも遮るものはなく、肌が目の前にあった。


(…ほ…ほし…い…)


静かにゆっくりと首を突き出し、頭が前に伸びた。唇がわなわなと震えていた。


(……ほ……し…………ん……)


男の鎖骨の下あたりに、小さく開いた唇と舌が同時に密着した。

月明かりが優しくその様子を静かに見守っていた。




目次へ     続く

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