第143章

浣腸されようがただの排泄だろうが、これは全くレベルの違う恥ずかしさだった。自らの汚物を生成する過程を見られているのだ。寒気とは違った悪寒がゾクゾクと身体を駆け抜けた。


「…取ってあげようね…」


「…い…いや…もう入れないで…」


「…うん…浣腸じゃなくて"これ"でね…」


またあのつらい注入が始まると思ったがそうではないようだ。もう浣腸はされたくなかった。ではどうやるのかと考えるほど思考に余裕はなく、ただ戸惑うばかりだった。

しかしそれはすぐに吹き飛んだ。その"これ"が目に入ったからである。いつのまにか枕に横になった陽子の目の前に男の手があった。見せつけるための手は長いものを握っていた。
画面を見続けていたためにぼやけたが、しだいにそのものに焦点が合った。銀色の棒の先がふくらんでいる。そのうちそれがなんなのかだんだんと陽子は把握した。

スプーンだった。陽子もいままでに何回も使ったことがある見覚えのあるものだ。喫茶店でチョコパフェを頼むとそれに付いてくる、あの先っちょにヘラのある長いスプーンだった。


「…ま…さか…そんな…まさか…やめてっ…やめてっ!!…」


男はカメラを元の場所に置いた。あぐらをかいて座っている股間にピンと張り詰めたペニスが上を向いている。その先から透明な粘液が出て釣り糸のように垂れているのが見えた。
そして男はペンライトとスプーンを持って歯医者のように器具の前に顔を近づける。スプーンは感触がないまま肛門の中へ挿入されていった。


「…陽子のウンチ、掻き出してあげる…」


…ピトッ…


「ヒッ!!!!…」


奥のところにいきなり冷たい感触が出現した。スプーンのヘラが届いたのだ。はっきりとどういうものが触れているかはわからないが、前もって見ているので、触れているのがそれだということだけは理解することができた。


…かちゃ…かちゃ…


「…ひっ!…ヒッ!…」


なにかが中でもぞもぞと動いている。遠くくすぐったいような感触が直腸の中、いや直腸の内側の"表面"を這い回った。
男の体は陽子のどこにも触れていない。動かないよう押さえるのに軽く腰に手を置いてるぐらいだ。直腸の奥"だけ"をいじりまわされる感触に、内臓を直接触られている感じがした。


「…いっ!…ああっ!…えっ…あっ…」


…ゾリ…ズリ…


「…アアアッ!…エアッ!…アウンッ…エァンッ…」


すぐに感触は実感のあるものとなった。スプーンが内壁をまさぐっていた。平らな部分か、縁の部分かぐらいが判ってきたのである。男の鼻息で中の空気は絶えず入れ替えられても、粘膜から湿り気はなくならずヌメヌメとしていた。上も下も触れられるところは全部ヘラにこすられた。陽子の抵抗はだんだんと無防備な喘ぎ声に変わっていった。


「…エアッ…アアッ…ンアッ…」


…かちゃかちゃ…かちゃ…ズリ…


どうすることもできない。いま肛門を引き締めることはできない。引き締めたらきっと危険だということを、考えずとも本能が判っている。力を抜いて全身を弛緩させておくしかいまの自分にはなす術がない。いや、そもそも引き締める力などもう残ってはいないのではないか。

なすがままだ。なすがままに一方的に神経を直接まさぐられ刺激…快感を与えられていた。どんな快感を与えられようとも。


「…イアッ…エアッ…ハアッ…アハアッ…」


(…いいっ…イイッ…おしり…やめて…イイッ…お…く…おしり…おく…や…そんな…さわんない…イイッ…こす…こすらな…い…イイッ…)


…ぐりぐり…かちゃ…ずり…ずり…ザリ…………ぐり…


「…ンアアアッ!…」


…ぴゅっ…ぴしゅっ…ちょろろろろろ…


粘膜のどこかにスイッチでもあったように尿が飛び出した。男は慌てる様子もなく、洗面器を股の間に滑り込ませた。それでもスプーンの手は休ませなかった。いま掻いたのはどこだろうか、オシッコしたのはココかとヘラで確認するように探り掻いてみた。


「…あえっ…あえっ…あう…あふ…あう…」


…とととととと…


「…ココか…んふ…オシッコ漏らしちゃうほど気持ちいいの?…おしりそんなに気持ちいい?…」


「…うえっ…あえっ…」


(…だめぇ…おし…オシッコ…気持ちイイィ…おしり…だめぇ…イイィ…)


口から舌が引っ込まない。ダラダラと枕にヨダレを染み込ませながら喘いでいる。陽子はもはやされるがままに未知の快楽を受け止めていた。


「はい、これできれいになったよ…」


尿が止まったと同じころ、スプーンが洞窟を去っていった。感じ方を知ってしまったのか、神経を剥き出しにされた粘膜の内側が生き物のように、スプーンを入れる前とは違った蠢めきを見せていた。


(…や…いや…も…っと…)


「…はああ…はあああ…」








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